(小生が敬愛するパキスタン・ウォッチャーで、日本パキスタン協会会員の中野勝一さんが執筆されたものをご本人の許可を得て、一言一句変更なしに転載させていただきます)
パンジャーブ州議会が1月14日に解散されたことは前回お知らせしました。もう一つのKP州(旧北西辺境州)については、特に問題もなく18日に解散され、暫定州首相の人選も与野党で合意が成立し、21日にアーザム・ハーン暫定州首相が就任しました。彼は同州のChief Secretary(適当な訳語がありませんので、総次官とでもしておきます)を務めたことがあります。総次官というのは中央政府から州に派遣される高級官僚で、州の官僚のトップで、大きな力を持っています。1984年に東京、大阪、福岡で「パキスタン・ガンダーラ美術展」が開催されたことを覚えておられる方は多いと思います。その際、パキスタン国内の博物館の収蔵品から多数の仏像やスタッコ、レリーフが出品されました。主催者のNHKなどが出品交渉で苦労したのがペシャーワル博物館との交渉でした。同博物館は州立の博物館で、中央政府がOKといってもなかなかOKを出してくれません。交渉の過程で分かったことは、州知事や州首相はもちろんのことですが、州の総次官の承諾を最初にとることが交渉をスムーズに進める上で必要だということでした。その苦労は後の「奈良シルクロード博」などの出品交渉に生かされました。
話が脱線しましたが、一方、パンジャーブ州の暫定州首相の人選については、同州議会の与野党のリーダー間でも州議会の委員会でも合意が成立しませんでしたので、最終決定は選挙管理委員会にゆだねられました。選管は22日、同州議会の与野党が推薦した4名のうちから、予想通りパンジャーブ州の野党(つまりPML-N.PPPなど)推薦のモースィン・ナクヴィー候補を任命することを決定し、彼は同日就任しました。ナクヴィー暫定州首相はジャーナリストで民間のテレビチャンネルを保有している人物です(ザルダーリー元大統領に近いとも言われています)。すると、PTIとPML-Qはこの人事に反発し、イムラーン・ハーンは27日、選管の決定を不当として最高裁に訴えました。
両州の暫定州首相の就任をうけ、1月26日には暫定州内閣が発足し、州議会選挙実施の体制が立ち上がってわけですが、両州の知事は肝心の選挙日を発表していません。選管は、パンジャーブ州については4月9日と13日の間に、KP州については15日と17日の間に実施するよう両州知事に提案しました。
パンジャーブ州で果たしてPML-NはPTIに勝利を収めることはできるのでしょうか。なんとも言えませんが、同州はPML-Nの牙城です。同党としては負けるわけにはいきません。1月3日、シャハバーズ首相(PML-N総裁)はシャリーフ元首相の長女マリヤムを同党の上級副総裁(senior vice president)に任命し、党組織の再編というか党の立て直しという重要な任務を与えました。この人事はシャリーフが自分の後継者はマリヤムと考えていることだと思います。同党のサイトを見ると何人かいる上級副総裁のトップに彼女の名前が掲載されています。彼女は1月28日にロンドンから帰国しました。シャハバーズ首相の長男で、前パンジャーブ州首相のハムザは子供の病気治療でロンドンに滞在したのち、現在は米国で病気治療中の母親のもとにいるということですので、今後同党の選挙運動は彼女が主導することは間違いありません。シャリーフ元首相の帰国については、ここ数日、党幹部がまもなく帰国するとは言っていますが、帰国日について明言していません。
パキスタン選挙関連で、新聞を読んでいて今まで知らなかったことをひとつ知りました。それは、パキスタンでは、大統領、首相、上下両院の議長・副議長、連邦大臣・副大臣、州知事、州首相、州大臣、首相・州首相の顧問、市長などは、いかなる形であれ選挙運動には参加できないということです。つまり、日本のように総理や大臣が候補者の応援演説はできないというわけです。選管のホームページで調べると、2018年の総選挙前に出された通達の中のCode of Conduct for Political Parties,Contesting Candidates and Polling Agentsのところに 記載されています。通達によれば、このCodeは選管と政党との協議を行い、政党の提案も取り入れたものだそうです。昨年のパンジャーブ州議会の補欠選挙でも同様の通達が出ています。Political Agentというのは立候補者の代理人で、投票日に投票所で投票や開票作業で不正がないか監視する人です。
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