【寄稿】非物質文明国マラウィとサーキュラーエコノミー

(英国王立国際問題研究所「チャタムハウス」の客員フェロー、BBT大学准教授の玉木直季さんからの書き下ろし寄稿です。一言一句、編集なしに掲載されていただきます。)

「そのアイディアは素晴らしいが、アフリカは、まず生きることに集中しないと!」隣のいかつい黒人が私に言う。エチオピアの首都アディスアベバから、マラウィの首都リロングウェに向かう機内でのワンシーンだ。

<マラウィへ> 馴染みは薄いかもしれないが、アディスアベバのポレ空港はアフリカのハブ空港で、そこを根城にするナショナルフラッグ、エチオピア航空はスターアライアンス加盟の大企業である。最新のエアバス350では自慢のエチオピア料理が楽しめ、私も手で雑巾のようなソフトブレッド、インジェラを引きちぎり、それで惣菜風のおかずを掴んで口に運ぶ。

目的地のマラウィは、炎という現地チェワ語の意味とは裏腹に人々はとても優しく温和である。The Warm Heart of Africaと呼ばれ、1964年の独立後、内戦のない数少ないアフリカの国である。日本にとって馴染みは薄いが、JICAの青年海外協力隊員の累計派遣数はNo.1で2,000人近くとなっている。玄関口であるリロングウェのカムズ国際空港建物も、空港を出て最初に視界に入る構造物の太陽光発電施設も、日本からの寄附で作られている。日の丸とともに、控えめに書いてある”From the People of Japan”の文字を見るのは、日本の納税者として、ちょっぴり誇らしかったりもするので、より多くの人が、こうした世界における日本の取り組みを知っておいても良いと思う。

<アフリカ大陸> 私はアフリカ大陸が大好きだ。特にサブサハラ(サハラ砂漠以南の地域のこと)では、空港に降り立った瞬間から(空港建物へのコネクトではなく、飛行機からタラップを伝い直接地面に一歩を踏み出すケースが多い)、大地からのエネルギーを強く感じる。両脚の裏から何かが身体全体に行き渡り、体内の血が沸騰する感覚になる。初めて、サブサハラの大地を感じたのはまだ20世紀の頃だが、いつでもこの感覚だ。ホモサピエンス誕生の地への里帰りをDNAレベルで喜んでいるのだろうと勝手に妄想している。

私は中東の人と思われがちだが、実は最初に住んだ外国はアフリカだ。随分と勉強の機会を与えてくれた留学先のカイロ。エジプトは中東の中心的存在だが、国土は北アフリカに位置しており、世界一長い川のナイル川を南に遡っていくと、スーダン、そしてエチオピアに辿り着く。国境を跨ぐ川がない我が島国では想像しにくいが、上流のスーダンやエチオピアで水を使われすぎると、下流に位置するエジプトでの流量が減ることで、しばしば国際問題にも発展する。同じ川の恩恵を受けて生きる、上流から下流、そして海まで含めた生態系を1つの自治体の基本単位にすれば良い、と考えている私だが、国家を跨いでまでそれが実現できる気はしない。ただ、明確な国境の存在しなかったエジプト王国の頃はそんな揉め事とは縁遠かったのであろうと想像する。

<Circular Economy> 私は、この2年ほど、英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)でCircular Economy(循環型社会)構築の研究をしており、今回はその関係での訪問だ。Circular Economyとは即ち“RE-“である。Renewable Energy(RE)のことだけではない。更に3Rで知られるReduce, Reuse, Recycleのみならず、Regenerative, Recharge, Refurbish, Return… そしてRe-member。人類が地球や自然のMember(森羅万象の一部)であったことを想い出す(to remember)ことをも勝手に含むことにしている。

Circular Economyを語る際の王道の議論は、まず、どのような規制を作るかである。例えば、ゴミ処理法、リサイクル法、産業廃棄物法、製造責任法などが語られる。そして、それを支えるインフラシステムの整備も重要だ。処理場やリサイクル施設を思い浮かべると分かり易い。ただ、私はそこにもう2つのアジェンダを加える必要性を感じている。一つは、需要のコントロール、すなわち消費者が、買わない、長く使う、捨てない、直す、別の形で再利用する、、、をマインドセットレベルで持つこと。これには精神的な理解の伝染が必要だ。

<地球に還す> そして、もう一つは素材の工夫。規制はあるが、守らない、処理場や施設のキャパがオーバーしている、不法投棄が安価、ゴミ箱探すのが面倒、、、色々な理由で人々の行動が変わらない可能性もある。それを前提に地球に還る素材で、モノを作るという考え方だ。

「Circular Economyのキーワード(玉木直季基準)」:①規制、②インフラ、③精神、そして、④素材

昨今プラスチックの害が騒がれる。間接的に我々も毎日パクパクとプラスチックを食べている。プラスチックが土に還るのに400年以上も掛かる理由は、その分子構造を微生物が破壊できないからである。ということは、微生物が食べられる分子構造のプラスチックであれば、そのまま捨てても土になる。そしてそれは技術的に確立している。また、プラスチックを食べる微生物の方も進化してきているという。そもそもプラスチックの原料である石油やガスも植物や動物の化石であり、だからこそ化石燃料と呼ばれているのであって、ちょっとした工夫が必要なだけである。

バブルティーに代表されるタピオカを口にしたことのある人は多いと思う。このタピオカの原料はキャッサバと呼ばれる芋のような植物の根で、アフリカや南アジア、東南アジアといった所謂グローバルサウスでは炭水化物源としてよく食べられている。このタピオカを一部原料にしたプラスチックを作ることが可能で、それをそのまま土に埋めると、、、溶けて無くなってしまう。

これから人口爆発と経済発展を迎えるインド洋の国々ではどうしてもプラスチックの消費量が増える。①規制や②インフラや③精神も重要だが、時間がかかる。であれば、製品がそのまま土に還れば問題ない。一人当たりのプラスチックの消費量は一人当たりGDPに比例する。であれば、今まだ消費量の少ない(筈の)国で、「①規制、②インフラの整備を!と同時に、④溶けるプラを製造しましょ!」と提案すべく、一人当たりGDPが日本の約70分の1のマラウィに白羽の矢が立った。エチオピア航空の機内で黒澤明監督の「生きる」の英国リメイク版”Living”を鑑賞し、生きる意味と自分の使命を感じ、背中を押されながらのマラウィ入りである!が、マラウィに到着する直前、隣に座っていたナイジェリア軍の少将の冒頭発言で出鼻を挫かれることになったのである。

<マラウィにて> さて、いよいよマラウィである。日本の3分の1の国土に、人口約2,000万人なので、それなりの人口密度、そして一人当たりGDPは600ドル程度である。空港は、日本の地方空港と同じような落ち着いた雰囲気だ。VIP到着ラウンジに通され、Wi-Fiに繋ごうとするが反応がない。「ずっと壊れているんだよ!」と笑顔満点の職員。

「アフリカに還ってきた!」我只知足(我ただ足るを知る)の境地だ。

昨年の瞑想合宿を経て、全てをあるがまま受け止めることを知った私は特に困りもしない。それで私の周りがちょっとだけ困ることはあるのかもしれないが、それでも地球は廻るのだ。

空港まで迎えに来てくれたバネッサさんには質問攻めだ。そもそも彼女は狭き門の名門のマラウィの大学に入りたいと考え、それを確実にすべく、隣国ザンビアに留学して帰国子女枠で入学をしたという。マラウィは、ザンビア、モザンビーク、タンザニアと陸続きであるが、当然それぞれの国で経済を含め色々と事情が違う。島国の民からは中々理解し難い現実だが、当たり前の話として、観光や留学や出稼や貿易でヒトモノカネが大陸内でダイナミックに行き来していることを再認識する。さて、空港の周りは見渡す限り木々と草原。道路は建設中で、日本からの太陽光発電以降China Aidの看板が目立つ。30分も走ると、街の中心だ。確かに建物はあるが、依然として素晴らしく森の中である。マーケットに足を踏み入れる。手作りの屋台で色とりどりの野菜が売られている。木炭を燃やす屋外キッチンでサツマイモが揚げられる。川を挟んだ対岸の市場に行くために、これまた手作りの橋が架けられている。渡るには往復25円もかかる。グラグラとスリルを味わいつつ対岸のマーケットへ。こちらでは、欧州などから寄付で集められた古着が売られているのである。バーバリーやラルフローレン、そもそも本物かどうかはあまり重要ではなく、Reuseの観点でCircular Economyである。

<アフリカの未来> 現役の大臣4人、副大臣1人、元大統領の夫人、そして街や村の人々と話す機会を得た。また、JICAや日本大使館の職員、また、外国人ビジネスマンなどとも意見交換を行った。着任したてのJICA青年海外協力隊員とも偶然出会うこともできた。何より印象的なのは、新着協力隊員のキラキラした眼と、外国人たちが持つ、この国や人々に対する問題意識の高さである。この高い意識が資本家たちにイタズラに利用されているのでは、と心配にもなる。この国を憂う、などということ自体がおこがましいのだろうが、この国に占める外国人2万人未満、0.1%を切っている(ガラパゴスと言われる日本でさえ約2%)で何をできるのだろう。

都市部から離れた村を観る機会も得た。電気も水道もなく、土壁の家々である。あれ、もう出来てるじゃん。そもそも人間が何十万年も営んできたままのCircular Economy(循環型社会)がそこにある。①規制でも②インフラでも④素材でもなく、出来れば、可能な限りこの状態を③精神性と共に残したい、と再認識する。

国土全体での電化率は13%、学校も足りないと嘆く政治家たち。果たしてそれが問題なのか?彼らの多くは、西洋教育を受けている。英国の力が落ちたとはいえ、Common Wealthの枠組みはなお健在で、植民地化した側、Colonizerの影響は今も絶大だ。ホモサピエンス誕生の地として崇拝されてもおかしくないアフリカだが、植民地支配から独立した後も植民地支配と同じ構造が続く。そこには見えない規制(ルール)が存在しているのである。その物差しで測る以上、彼らはいつも貧しく困っているし、意図を持って、そのままの状態を余儀なくされている。そして、良し悪しの問題ではなく、中国はそうした国々に具体的に手を差し伸べている。複雑な問題に顔を突っ込むつもりはなく、まずは、現状をあるがまま受け止める。その上で、中国の隣に国を構え、G7で唯一、(実質的)植民地支配を受けてきた日本、互いに太陽を崇める国の民として、私はここで何から始めるかを考える。

作られた規制(ルール)は破るために存在する。筈なのに、地球のためを謳い、政府に新たな規制を提案している自分。一方で、街灯なきアフリカの星空を見つめながら「自由を求め続ける51の夜♪」なのである。

人生はつくづく矛盾にまみれたadventureだ。。。

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