英国王立国際問題研究所「チャタムハウス」のフェロー、BBT大学准教授の玉木直季さんからの書き下ろし寄稿です。(1月3日付) ご本人からの依頼を受けて、一言一句、編集なしに掲載させていただきます。
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2024年、国際情勢は大荒れ、といったところだろう!
<十干十二支における甲辰(きのえたつ)>
さて、今年2024年、十干十二支では甲辰(きのえたつ)。十干の最初にあたる「甲」は、生命の始まりの状態を意味するという。一方、「辰」はドラゴン、昇龍よろしく、そのまま龍のイメージを当てはめて良いだろう。十二支の中で唯一実在しない生物だが、禅や寺との関係も深く、龍(竜)のつくお寺やモチーフにした仏教芸術が多いのを思い出す方も多かろう。また、一説には人類の命の源となる水を湛えた川を意味するとも説かれており、龍神が水や海の神として祀られていることとも関連がある。まぁ、そんなことで、甲辰はどんな風に言われているかというと、「春の日差しが、あまねく成長を助く」だとか「硬い殻を強く揺さぶって大きく成長させ、あるべき姿へと整っていく状態」だという。
前回の甲辰1964年の出来事は、東海道新幹線開通、日本IMF8条国へ(為替制限を撤廃した国)、海外旅行自由化、IMF世銀総会日本開催、モノレール開通、東京五輪、「根性」が流行、日本OECD加盟、ソ連との間で相互訪問実現、中国核保有国へ、パレスチナ解放機構(PLO)設立、南ア・ネルソンマンデラ氏終身刑、、、
とやはり次の時代への移り変わりを感じさせる出来事が多い(※注:ここ毎年同じコメント!私による毎度のプロパガンダなので感じ方は読者の皆様にお任せします)。
さてと、2024年、どんな年にしていきましょうか?いきなり足元がぐらついたり、キタイが炎に包まれたり、、、ただ、日本は「人々を想う気持ち」の確認からスタートを切った。では、まずは昨年から。
<2023年、事前準備完了>
結局は、毎年その1年を振り返ってみるといつも激動年となる!そう「常に人類は激動の日々を送っているのだ!」と思う。と同時に、メディアは「今日も世界は平穏です!」を報道していてはニュースが成り立たず、存在意義にも関わるので、何らかセンセーショナルなネタを切り取り、撮影、報道して視聴者の不安を煽ることが繰り返されているだけでそもそも激動などないのでは?とも感じている。それでも2023年はネタに事欠かない1年だったのではないだろうか?順不同で、ウクライナ、ガザ、チャールズ国王戴冠、キッシンジャー氏死去(100歳)、トルコシリア地震、米銀行破綻、COP28UAE、G7広島、インフレ、円安、株バブル、裏金、GPT、ジャニーズ、コロナ5類、WBC、大谷翔平さん、慶應義塾高校甲子園優勝、、、いちいちおさらいはしないが、これらに加え、坂本龍一さん、谷村新司さん、松本零士さん、山田太一さん、伊集院静さん、ムツゴロウ先生、アホの坂田さん、財津一郎さん、もんたよしのりさん、KANさん、BuckTickの櫻井さん、アダモちゃん、、、など社会現象を創った方々が亡くなり、安寧を説いて人々を救った大川隆法さん、池田大作さんが入滅されたことのバタフライ効果も小さくなさそうだ。
国際情勢を観ても、2024年に表面化する嵐に向け、着々と進めてきた(進んできた)仕込みが完了したのが2023年だったように観ている。
<ちょっぴり地政学>
グローバルサウスの文言を眼にするようになって久しいが、サウスというから南半球?など、なんとなくどの国を指すのかイメージがし難いのではないだろうか。有力新興国といわれたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が、新年1月1日より拡大され、新たに5カ国(イラン、サウジ、UAE、エジプト、エチオピア)が加わった。産油国を中心とする中東の主要国とサブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカのハブたるエチオピアだ。この拡大BRICS 10カ国には世界の人口の45%、GDPの28%、原油生産の44%が集中している。ちなみに、ロシアと中国が主導しインドも参加している上海協力機構(SCO)にも大きく動きがあり、2023年には、イランが正式メンバーとして加盟し、サウジ、UAE、エジプトも対話パートナー国として加わった。即ち、BRICS10カ国中、7カ国(ロシア、インド、中国、イラン、サウジ、UAE、エジプト)はSCOの流れを汲む国となり、こうした枠組みをグローバルサウスと考えるとその理解が深まるのではないだろうか。ちなみに、G20 – G7 = G13カ国中の6カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのオリジナルBRICS+サウジ)がBRICS、SCO双方の関連メンバー国なのも偶然ではない。
地図上で見ると、BRICS+SCOでユーラシア大陸の東側と南側をべったり抑える形となる。地政学的なものの見方では、アメリカやイギリス(実は日本も)といった「シーパワー」とロシアや中国といった「ランドパワー」の対立があり、その境となるのが「リムランド」。そこでは、歴史的に争いが繰り返されてきており、今も紛争の多くはその地域で起きている。ランドパワーがユーラシア大陸のリムランドの主要国を巻き込んだ形となるのが、BRICS+SCOである(言わずもがなだが、ブラジルと南アはその地域外)。リムランド地域にあたり、争いが絶えなかった中東だが、サウジとイランが国交を回復し、揃ってこれら2つ(BRICS、SCO)の枠組みに参加することの重み、これにて、ランドパワーを中核とするユーラシアグローバルサウス(非欧米と言っても良い)の地固めが完了すると見ることができる。そして、このグローバルサウスは前述BRICSデータの通り、エネルギーや鉱物などの天然資源をコントロールし、豊富な人口を有している。
<2024年は選挙の年だが!?>
-1月-
BRICS拡大
バングラデシュ総選挙
台湾総統戦
-2月-
パキスタン総選挙
インドネシア大統領選/総選挙
-3月-
ロシア大統領選
ウクライナ大統領選(やる?やらない?)
-4月-
韓国総選挙
インド総選挙
-5月-
南アフリカ総選挙(マンデラ大統領就任から30年)
-6月-
EU議会選挙
G7サミットイタリア
メキシコ大統領選/議会選挙
-7月-
パリ五輪
-11月—
米国大統領選(トランプ大統領再登板)
G20サミットブラジル(BRICSの一角)
COP29 アゼルバイジャン(エジプト、UAEに続き、3年連続で、産油ガス国での開催)
-12月-
英国総選挙
国際情勢に影響を与えそうな大イベントだけをと考えて取り上げた訳だが、こんなにも選挙が多いことに驚かされる(上記以外にも選挙モリモリ)。一つ一つの分析をしていくと文字数ばかり増えることに加え、全体像を見誤りかねないので、本稿では俯瞰的アプローチに留める。
紛争や戦争、誰でも、どの国でも、それぞれの正義のために争っている。それを第三者やその集いが良い悪いを判断し、国際世論(せろん)の名の下で国家や国民を洗脳し、巻き込むことが迷惑なのである。国連とて既に限界が来ていて機能不全を起こしていることは、United Nationsの頭文字で始まるUN〇〇と関わった人はだいたい気付いているだろう。紛争解決に向けた頼みの綱としての国連は幻想だ。仲介は時に必要となるが、争いは当事者間で解決されるべき性質のもので、外部を巻き込むと出口が遠くなる(ウクライナが良い例で、もうゼレンスキー大統領が意思決定することは出来ない)。
エネルギーも食料も自給率100%を超える国で自国の平和を考えるのであれば、侵略されない備えをして鎖国をするのが良策だ。明治に入り工業化する前の日本がそうであったし、再登板となるトランプさんが目指すこれからの米国もMade in USAで生きるアメリカファーストの方向だ。グローバリズムがもたらしたロジスティクス上の便利さは利用し搾取の悪癖を排除しつつ、自国自立の道へ。それこそがその国を強靭化し、国際社会の一員を担うための道筋なのである。
環境問題にも触れるとすれば、2021年のCOP26英国グラスゴーの後、2022年COP27エジプト、2023年COP28UAE、2024年COP29アゼルバイジャンと、3ヵ年連続の産油ガス国での開催で、炭化水素(石油、ガス、石炭など)ベース社会からの移行が急激に行われない(行えない)ことを、しっかり国際輿論(よろん)として根付かせる流れが加速する。また、自国自立のために貴重な資源の節約に繋がるサーキュラーエコノミーが今以上に注目され、食料問題に真剣に取り組む流れが強くなるだろう。
そんな背景を通じ、各国の選挙では、①グローバルサウス=非欧米への移行、と②自国自立の方向、を目指す国が増えるだろうし、ビジネスとしてもそれをサポートできるものが「吉」となる。
順不同で、ガザ攻撃の激化と鎮火、世間のウクライナ離れ、グローバリズムの終焉、グローバブル崩壊、グローバルサウスがリードする世界、EU低迷、ドル迷走、自国ファースト、新たな基軸通貨、円高、プーチンさん続投、トランプさん再登板、台湾進攻回避、金融政策の限界、岸田政権終焉、財政難、個人資産家の破産、、、そんなワードが2024年のニュースを賑わしそうだ。
<どうする日本!?>
シーパワーの国であった筈の日本はそのパワーを失い、リムランドとしてシーパワー覇権たる米国へのほぼ完全追従姿勢を取っている。ユーラシアのリムランドを自陣営に取り込んだロシアや中国といったランドパワーだが、太平洋側のリムランド(朝鮮半島、日本列島)には手を焼いている(台湾は国際的に認められた中国の一部なのでわざわざ新たに取り込む必要なし!)。この地域を自陣営に巻き込めば、一定の安定を観る訳で、直近の北朝鮮とロシアの接近からもその動きがあることが分かる。
我が国は、この地域に主権国家(あれ、主権なんてなかったか、、、)を構えたが故の優位性を持っている。ランドパワーとシーパワーに挟まれたことやかつて有したシーパワーを失ったことを嘆くのではなく、その地政学的優位性を利用し、外交上の二枚舌でも三枚舌でも使って、両パワーを天秤にかけながら生きることができる。ただ、外交は外交として舌何枚でもよいが、その神髄として地球の未来に向けた平穏を常に持っておけば、国際輿論(よろん)を味方につけることができるだろう。
2024年は英仏がソビエト連邦を国家承認して100年、また、現代世界の方向性が作られた第一次世界大戦勃発から110年(サラエボ事件)となる。この大戦時の英国による三枚舌外交が自国の覇権(自国ファーストとは異なる、他国の統治と搾取)と引換に中東を1世紀以上にわたり火薬庫として苦しめてきた。100年の時を経てロシアが新たなパワーをもって新たな秩序作りの嵐を起こす中、第二次世界大戦以降、他国に統治・搾取され続けてきた我が国が、リムランドとしてのパワーを発揮する外的環境は整っている。心まで統治・搾取されてはいないと信じたいが、政権は果たして2024年の嵐に乗じることができるだろうか!?
<おわりに>
どうやら、2024年の国際情勢の嵐は避けられそうにない。ただ、それとて身の回りで起きている変化し続ける事象に過ぎないのだから、心を病むことはない。私は、ただそうした変化を観察し、日々の坐禅を通じ、心を平穏に保つことで、嵐に乗じていくつもりだ。世間でも、インプットした知識ではなく、マインドフルネスやメディテーションで気付いていく叡智の重要性が再確認されてきている。私も知識×叡智のアウトプットを行っていこう。
それでは、2024年、皆さまの心も常に平穏でありますようお祈り申し上げます🧘
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