【転載】留保議席判決に再審請求 & PTI非合法化 & 反逆罪

(小生が敬愛するパキスタン・ウォッチャーで、日本パキスタン協会会員の中野勝一さんのパキスタン政治関連メモをご本人の許可を得て、一言一句変更なしに転載させていただきます。本稿は2024年8月2日に小生に共有していただいたものです。)

1.留保議席判決の再審請求

7月15日、PML-Nは憲法第188条に基づき、最高裁が下院と州議会においてPTIは女性と非ムスリムの留保議席(以下留保議席)を得る資格があるとした、12日の最高裁の判決(詳細はパキスタン情報24‐12参照)につき最高裁に再審請求しました。憲法第188条は、最高裁がその判決や命令を再審理する権限を有すると定めています。

再審請求の理由のいろいろ挙げられてはいますが、最大のポイントを簡単に言えば、本件訴訟では「SICが留保議席を求めているのであって、SICがPTIに留保議席を与えることを求めてはいません。また、PTIも選管、ペシャーワル高裁、最高裁のいずれにも留保議席を求める訴えを起こしいませんので、PTIには留保議席をうける権利、求めてもいない救済を受ける権利はない」ということだそうです。7月23日にはPPPも最高裁に再審請求しました。最高裁がこれらの再審請求を却下するのか、それとも棄却するのか注目されますが、いまさら12日の判決をひっくり返すようなことはないでしょう。

2.PTI非合法化問題が

7月15日、ターラル情報大臣は記者会見で、PTIは反国家活動に関与しているとして憲法第17条に基づきPTIの非合法化に向け法的手続きを開始することを明らかにしました。また、イムラーン・ハーン、アルヴィー前大統領、スーリー前下院副議長を反逆罪で訴追することを計画していることも発表しました。PTIの非合法化の動きにつき、当然のことながらPTIをはじめとする多くの政党、メディア、人権団体がこれに反発し、政府を強く非難しました。連立与党のPPPの指導者の口から、これについて協議にあずからなかったとして不満が聞かれました。

そんな中、7月24日付ドーン紙によると、政府はPTIを非合法化することを決定したと報じていますが、アースィフ国防大臣は25日の記者会見で、閣議ではPTIの非合法化につき協議されたことはないが、連立与党とも協議の上、決定されるだろうと述べています。

憲法第17条は結社の自由を定めています。同条2項はわかりやすく言えば、次のとおりとなります。

①   国民は誰しも政党を結成し、政党の党員になる権利を有しますが、公務に従事する者にはそのような権利はありません。

②   また、この権利は無条件ではありません。パキスタンの主権または保全のために法律によって課されるしかるべき規制を受けます。

③   規制を課す法律においては、政党がパキスタンの主権と保全を害する方法で結成され、活動していると連邦政府が宣言した場合、連邦政府は15日以内に最高裁に付託し、最高裁の決定が最終的なものとなるということを定めなくてはなりません。

この憲法の規定を受けた法律による規制は、現在、2017年選挙法(Election Act,2017)のセクション212に定められています。つまり、連邦政府は、ある政党が外国の援助を受けた政党であると、またはパキスタンの主権と保全を害する方法で結成され、活動を行っていると、もしくはテロに耽っているいると確信した場合、その旨宣言し、15日以内に最高裁に付託しなくてはなりません。最高裁がこの宣言を支持すれば、その政党は解散させられます。

政党の非合法化で一番有名なのはZ,A,ブットー政権が1975年2月に当時の北西辺境州で勢力を有し、親ソ連・インド・アフガニスタンの左翼政党であったNational Awami Party(NAP 党首はかの有名なワリー・ハーンでした)の非合法化を宣言し、最高裁もこの宣言を支持し、NAPは解散させられました。しかし、旧NAPの指導者はNational Democratic Partyという政党を結成、さらに、Awami National Party(ANP)と改名して現在に至っています。現在ANPは選管に登録された正当な政党で、2月の総選挙では下院で1議席獲得し、上院でも3議席もっています。

3.反逆罪

反逆罪について、1973年の憲法施行当時、第6条は次のように定めていました。武力の行使、または武力の誇示、もしくはその他憲法に反する手段でもって、憲法を破棄する者、憲法破棄を企図もしくは共謀する者は大反逆罪に問われ(同条1項)、このような反逆行為を幇助または教唆した者も同様の罪に問われます(同条2項)。

この規定は2010年4月の第18次憲法改正により厳しくなりました。すなわち、憲法を停止する者、ズィヤーやムシャッラフのように一時停止する(hold in abeyance)者、そのようなことを企図または共謀する者、さらにはこのような反逆行為に協力する者も反逆罪に問われることとなりました。さらには、反逆罪の行為についてはいかなる裁判所もそれを承認してはならないと定めらました(同条2A項)。

1976年刑法改正(特別法廷)法(Criminal Law Amendment(Special Court) Act,1976) のセクション4(1)に基づき、政府は同法セクション3(1)に定める罪を裁くために特別法廷を設置できるとなっている。反逆罪はそのような罪のひとつとして挙げられています。また、1973年の反逆罪(刑罰)法は、死刑または終身刑と定めています。

前述のイムラーン・ハーン、アルヴィー前大統領、スーリー前下院副議長に対する容疑は2022年4月、下院に上程されたイムラーン・ハーン首相不信任案の可決を阻止するために下院を解散したというものです。パキスタンの政治家は何かあると、すぐ反逆罪と口にします。これら3人の行為が憲法違反であっても、別に憲法第6条が定める行為には該当しないことは明らかです。

今回のPTI非合法化と反逆罪での訴追は冒頭の7月12日の最高裁判決を受けた単なる思い付きなんでしょうか。それとも誰かの指示を受けたものなのでしょうか。こんな措置によって一体誰が裨益するのでしょうか。

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