【寄稿】チャールズ3世戴冠式から観る

(英国王立国際問題研究所「チャタムハウス」の客員フェロー、BBT大学准教授の玉木直季さんからの書き下ろし寄稿です。一言一句、編集なしに掲載させていただきます。)

英国がコロネーション(戴冠式)一色に染まった5月6日(土)。その翌日7日にシリアのアラブ連盟復帰が決まった。JICAにいる友人が、シリアの在京臨時大使に祝意を伝えるか悩みつつ、その旨を確認したところ「お祝いはアラブ連盟側に伝えるべき言葉だよ!」という粋な応えが返ってきたという。

1、アラブの春〜シリア内戦

そもそもアラブ連盟って何?という感じだとは思うが、アラブ世界の国連と考えて貰えば良い(ちなみにイスラム世界の世銀「イスラム開発銀行」という国際機関@ジェッダも存在する)。私が大好きなシリアは、2011年以降、反政府派への武力弾圧を理由に参加資格を停止され、アラブ諸国から追い出された形になっていた訳だが、まずは、シリア内戦について簡単に振り返ってみたい。2010年にチュニジアで始まった「アラブの春」の影響が2011年に飛び火し、アサド政府と反政府(ここにISが加わっている)の対立が続いた。チュニジア(ベンアリ大統領)、リビア(カダフィ大佐)、エジプト(ムバラク大統領)と長期政権を保ってきた独裁政権(私は悪い意味で使っていない、むしろ民主主義より優れた一面も多いと考えている)が次々と倒れ、他の北アフリカ諸国やイエメン、また、君主制の湾岸諸国にまで影響が及んだ。そして、シリアの長期独裁のアサド政権(パパアサドから子アサドへ)も当然転覆の対象となった。アサド家はアラウィー派という穏健なイスラムの宗派だが、これはイスラムシーア派に属する派とされている(何を基準にシーア派と判断するかは難しいが、シーア派の高僧が認めればそうなる)。イランと同じシーア派グループということで、イランはアサド政権を支え続けた。これをサポートした大国は他でもないプーチン大統領のロシアである。イランはペルシャ湾の北側から地中海にかけ、イラン、イラク、シリア、レバノンにシーア派というイデオロギーにより影響力を及ぼし、アラビア半島の南側のイエメンのフーシ派とも気脈を通じることで、中東にシーアの三日月を形成し、サウジやUAEを包囲する形を作った。当然といえば当然だが、イスラムにおけるマジョリティであるサウジなどのスンニ派の国々はシリアにおいて反政府側勢力に味方し、今では過去の記憶となってしまったイスラム国(IS、アルカイダと同根)までも支援していた。そしてこのグループを積極サポートしていた大国は米国だ。

2、頼れるロシア、頼りない米国
シリアの対立を簡単に説明すると、イラン+ロシアvsサウジ+米国(+トルコ)の構図である。トルコが(カッコ)内なのは、エルドアン大統領(まさに選挙中!)とプーチン大統領の愉快な関係によるものだ。このシリア情勢でトルコがロシア戦闘機を撃墜する事件(2015年)により劇的に関係が悪化したのち、トルコ側のミスであったと謝罪することで仲直り。どころか、トルコはNATOの一員であるにも関わらず、ロシアに対空防衛システムS400を整備して貰うまでとなった。NATOの仮想敵はロシアの筈、その防衛システムがロシア製という頓珍漢な国際政治の面白さをここに見ることができる。また、今も積極的にロシアのエネルギーを買っているのは他でもないトルコである。
話を元に戻そう。散々、アサド政権、イラン、ロシアを悪とし、化学兵器の利用(事実はどちらが使ったかは不明、私は反政府がやったと思っている)などで目の敵にしてきた国際社会(西洋社会)だったが、結局はイラン+ロシアの勝利、サウジ+米国の敗北である。今年3月には米国を尻目に中国の仲介でサウジとイランが国交を回復している。そして、アサド政権のシリアはアラブ連盟への復帰が決定し、アラブ世界でも正式に正当性が認められた。最近とかく話題のサウジだが、国内需要換気のプロジェクトは米マッキンゼーに巨額なコンサルフィーを支払って描かせたものなので、いわゆるイケてるものが多く成功しているように見える。一方で外交は、カショギ事件で総スカン、カタール制裁で失敗、対イランで譲歩、イエメンの泥沼、シリアでの敗北、と良いとこ無しである。大体、米国に支えられながらの外交は全敗である。こうして中東諸国の米国離れは加速していく。

3、ではウクライナは?
地域のことは地域が考える。私は、これが本来あるべき姿だと感じている。火力と財力を携えた覇権国が世界のルールを決め、海を超えて支配する時代は終わった、というかその幻想や限界にようやく気付いたのではないだろうか?

シリアとウクライナでは事情は違うが、共通点もある。ゼレンスキー大統領を積極的に支えているのは、海の向こうの英国と米国であり、近隣のEUや国境を接した国々ではない。EUはエネルギー事情からも本音ではロシアと仲良くしたい筈だが、事情の異なる外野が大騒ぎをしているのだ。ユーラシア大陸だけでウクライナ問題を考えたら全く違う展開になるであろうし、こんな流血も避けられただろう(ただ、武器が売れず、紛争が減った世界において軍需産業には大打撃だ)。

プーチン大統領のやっていることを正当化する立場にはないが、フェアにみてウクライナにおいて、ロシア系国民を守ったり、原発を守ったり、現状の敵国へのエネルギー供給をやめなかったり、制空権を取っているのにキーウを落とさなかったり、など西側プロパガンダメディアのニュースの行間からでさえもロシアのやり方には賢さが見えてくる。シリア同様、米国に支えられている側こそが危ういのかも、、、?

(コロナ前の中東情勢)

4、戴冠式は何色?

エリザベス女王が心血を注いだ英連邦(コモンウェルス)。女王存命の間は、彼女のそれまでの貢献や関係から英国を立てる形での結束が続いたが、その基盤がぐらついている。戴冠したチャールズ3世はコモンウェルス56カ国のうち、15の国の君主であるが、果たしてオーストラリアやカナダやニュージーランドの国民はそれを意識することがあるのだろうか。インドをはじめ既に大国となった独立国は独自路線を進めようとする一方、小国や島嶼国は連邦にぶら下がって蜜を吸いたがっている。ただ、そんな英国力の低下など微塵も感じさせない荘厳な式で、ロンドン市内はユニオンジャック色(青、赤、白)に染まった。戴冠式の会場となったイギリス国教会の大本山であるウエストミンスター大聖堂に、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教、シーク教等の各宗教大司祭たちを招いたのも、宗教的ダイバーシティを謳う素晴らしい試みであった。

一方、映像からは見慣れているがこの場合に不釣り合いな色が視界に飛び込んでくる。会場の床が一面、青と黄色のウクライナ国旗色なのは偶然であろうか?白黒映像の時代ならともかく、この先、未来永劫繰り返し利用されるカラー映像だ。王室の大きな存在意義である非政治的外交能力、それを支えるapolitical(非政治主義・政治的中立)を自ら否定するかのような一面は、「アタマカクシテシリカクサズ」になってしまったとの感を受けた。青はともかく、黄色い政治色を反映させる必要が本当にあったのかは理解に苦しむ。

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