【転載】パキスタン総選挙「議員失格・バット」

(小生が敬愛するパキスタン・ウォッチャーで、日本パキスタン協会会員の中野勝一さんが2024年2月8日のパキスタン総選挙関連で執筆されたものをご本人の許可を得て、一言一句変更なしに転載させていただきます)(本稿は2024年1月、総選挙前に執筆されたものです)

1.議員失格の期間

 最高裁は1月8日、6対1の多数決で憲法第62条1項(f)に基づき議員失格となった者は終生議員失格となるとした、2018年4月の最高裁判決を無効とする判決を下しました。各紙は、「画期的な最高裁の裁定、ナワーズ・シャリーフの4度目の首相に向けての(選挙の)立候補を認める」、「最高裁、ナワーズ・シャリーフとジャハーンギール・タリーンの選挙に立候補できるための地ならしをした」といった見出しで報じ、各紙とも判決を評価する社説を掲載しています。また、法曹界もおおむね判決を歓迎しているようです。この判決によって、シャリーフの総選挙での立候補と首相復帰への道を阻害していた問題が解決したわけですからシャリーフにとってはめでたし、めでたしの判決です。

憲法第63条1項(g)によれば、パキスタンの主権や安全などを害する活動をした罪で有罪判決を受けても刑期満了から5年間しか議員失格とならないのに、シャリーフの場合のように選挙の立候補届け出の書類に不備があっただけで生涯議員になる道を閉ざれるというのは、どうみてもおかしいと思います。ただ、上述の2018年の最高裁判決はシャリーフ首相を選挙から排除する政治的な判決であったことは紛れもない事実であったわけですから、それを無効とした今回の判決も逆にシャリーフに好意的な政治的な判決であったといえますし、その背景には昨年9月の最高裁長官の交代の影響があったのではないかと思っています。

2.PTIの選挙シンボル問題

 ここ1か月あまり物議をかもし、法廷闘争にまで発展したPTIの選挙シンボルについて述べたいと思います。皆様ご存じのように、パキスタンでは投票用紙や立候補者の一覧表には立候補者の氏名は書かれていますが、政党の名前はありません。その代わり政党の選挙シンボルが印刷されています。これは文字が読めない有権者に配慮したもので、有権者はそのシンボルをみてそこにスタンプを押して投票するわけです。PML-Nはトラ、PPPは矢、そして問題のPTIは(クリケットの)バットです。

この問題の発端は、PTIが昨年12月2日に実施した党役員選挙です(党役員はいずれも無投票で当選し、党首に選ばれたのはイムラーン・ハーンではなくゴーハル・アリー・ハーンという、どちらかといえば知名度のそれほど高くない弁護士でした)。選管は22日、PTIの党役員選挙党の規約に基づいたものではなく、無効であるとして同党は選挙シンボルを得る資格はないと決定しました。PTIはこの選管の命令は不当としてペシャワール高裁に控訴し、今年の1月3日に同シンボルの復活が認められましたが、今度は選管が最高裁に控訴し、最高裁は13日、選管の主張を認め、PTIはバットを選挙シンボル使えなりました。従って、同党の立候補者は無所属として選挙を戦わなくてはならなくなりました。

<参考>

上述のPTI候補者の無所属での立候補とは関係ないですが、以下参考まで。選挙ではどこの政党の公認も受けず、無所属で出馬する者も当然いますが、パキスタンでは、無所属で当選した者は当選が正式に確定してから3日以内なら、特定の政党に入党することができ、その議席は入党した政党が獲得した議席とみなされます(憲法第51条6項(d)、(e))。ちなみに、前回の2018年の総選挙後、下院では 13 名の無所属候補が当選し、そのうちの9名が PTI に入党しました(毎回、第1党となった政党に入党しています。当然です)。残る4名はいずれの党にも入党しませんでした。

3.イムラーン・ハーンの逮捕

 秘密文書(在米パキスタン大使館からの外務本省への電報)を漏洩した事件(いわゆるcipher case)を審理している特別法廷は1月9日、容疑者でラーワルピンディーのアディヤーラ刑務所に収監されているイムラーン・ハーンの保釈請求を認め、釈放を命じました。しかし、同日、昨年5月9日の陸軍司令部襲撃事件などの関連でイムラーン・ハーンは逮捕されました。

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